2012年7月18日水曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その9】


MATECOレポート第十弾は、『十人素色-決定の論理-』にご登壇頂いたランドスケープデザイナー・熊谷玄氏のレクチャーについて、です。
実は植物には詳しくなくて…と仰る熊谷さんですが、いずれのお仕事を拝見しても豊かな緑や草花と一体となった、ちょっとユーモラスで近寄ったり触ったりしてみたくなる造形が大変印象的です。
以前色彩についても少しお話をさせて頂いたことがありますが、その際も“色のことは実はよくわかってないんだよね”と謙遜されつつ、ご自身が素材や色彩を選定することをとことん愉しんでいらっしゃる様子が伝わって来、その様子に大変興味を持ち今回のレクチャーにご登壇をお願いしたという経緯があります。
どのようなお仕事に係られているかはHP等で拝見することが出来ますが、熊谷さんというキャラクターの佇まいから伝わってくる朗らかで愉しげな雰囲気は、残念ながら中々上手く文章にすることが出来ません。 
ご登壇頂いた10組の素晴らしいプレゼンテーションはTEDのスーパープレゼンテーションに匹敵するのでは、とも思っています。実は今回のレクチャーも全て映像に記録しており、今後もちろんレクチャラーの方々に許可を頂いた上で、編集したダイジェストを公開することも検討していきたいと思います。

レポートその1その2その3その4その5その6その7その8とも併せて、ご高覧頂ければ幸いです。


Vol.09対象と向き合い、気付きの中から生まれるデザイン」 熊谷玄氏

熊谷玄さんは、自身のプロジェクトをXSSMLXL5つのスケールに分類し紹介くださいました。様々な分野のデザイナーが集まった『十人素色-決定の論理-』において、ランドスケープのような大きなスケールのプロジェクトから、タイルやインスタレーションなど小さなスケールのデザインにまで及ぶ熊谷さんの対象領域の幅広さは印象的でした。

デザイン対象のスケールは様々でありながらも、敷地や対象のもつ大切な部分や“ステキなところ”みたいなものを鋭く発見し、デザインのコンセプトへと据えるというスタイルは一貫されており、そのやり方は、貝殻をタイルにしたり、草花をアクリルに封入するといった字面どおりのサンプリングから、湖畔のスペースに湖におけるコミュニケーションのスタイルを引用したり、カップヌードルミュージアムに安藤百福の言葉を記したりと、対象ごとに様々でおもしろかったです。

また、他の分野のデザイナーや多くの関係者と関わる仕事が多いという中で、関係者を楽しませることでプロジェクトを盛り上げるということを大切にされているとのこと、とても大切なことだと思いました。

最後に紹介されたカンボジアの世界遺産の寺院の周辺整備のプロジェクトについては、これから取り組まれるとのことでしたが、どのようなデザインを展開されるのか楽しみです。

先日、stgkwebサイトがリニューアルされたそうです。
十人素色で紹介されていたプロジェクトもより詳しくチェックできます。未見の方は是非。


●レクチャラー紹介
熊谷玄 / GEN KUMAGAI
1994 Graduate ICS COLLGE OF ARTS
1995 - 2000  STUDIO 崔在銀
2000 - 2008 EARTHSCAPE inc.,
2008 - STUDIO GEN KUMAGAI
2009 株式会社スタジオゲンクマガイ設立
[活動歴]
くらすわ(2011年グッドデザイン賞)/NTT東日本研修センター(2011年グッドデザイン賞)
沖縄アウトレットあしびなー/三井アウトレットパーク木更津/プレアビフィアエコビレッジ計画 他

●レポート執筆担当
田中 毅 / TSUYOSHI TANAKA
1982年、香川県生まれ。2008、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻修士課程修了、同年有限会社イー・エー・ユーに入社。
長崎県五島市福江島・堂崎地区駐車場などを担当。


【追記:MATECO代表 加藤幸枝】
いつもにこやかな印象の熊谷さんは、恐らくクライアントを楽しませるのと同じように、茶目っけたっぷりの語り口で私達を楽しませて下さいました。

完全な公園を考えて下さい、という展覧会のオーダーでは、完全なモノをつくることは難しいけれど、それでも完全なものを求める人間の気持を考えられたそうです。何かかたちとしての完全なモノを取りに・見に行くのではなく、気の持ちようや対象との向き合い方によって『完全性』に気づくことが出来るのでは、と発想されたとのことでした。

アクリルキューブに封入された公園に落ちていた様々なモノに対し、例えばクリは改めてよく見ると何だか有り得ないかたちをしている、という気づきがあったそうです。
“コイツなんでこんなにトゲトゲしているんだろう…。”恐らく地球誕生から現在に至る歴史の中で、クリにはクリの事情があってこうなっているわけで、それを想像することが豊かさや自然界の造形の完璧さを考えることになるのではないか、というお話が大変印象に残っています。

クリにはクリの事情…。私は未だに、このフレーズを事あるごとに思い返しています。モノゴトの成り立ちに思いを馳せることによって、時に私達人間が自然に抗うことの不自然さを感じつつも、やはりそこから学ぶべきことがまだ多くあると感じています。

熊谷さんが手掛けられているランドスケープデザインというお仕事の基盤は、自然の造形や現象なのだと思います。大小様々なスケール・オーダーと日々向き合う中、ちょっとした気づきや発見から魅力あるデザインが生み出されていること、ご自分の仕事を本当に楽しんでいらっしゃることが伝わってくるレクチャーでした。

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