2012年6月15日金曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その4】

MATECOレポート第四弾は、『十人素色-決定の論理-』にご登壇頂いたマテリアルディレクター・田村柚香里氏のレクチャーについて、です。
タイルやレンガに並々ならぬ愛情と知識、さらに人や場を繋いでいく不思議なパワーをお持ちの田村氏と色彩を専門とする加藤(共にMATECO代表)との出会いが、素材色彩研究会・MATECO設立のきっかけとなっています。

その出会いの場とは2011年GSDyのサロンで行われたミニシンポジウムです。当時の様子や参加して下さった方々の感想等は『風景を醸し出すディテール-素材・色彩から考える風景』の報告書にまとめられています。
ポートその1その2その3とも併せて、ご高覧頂ければ幸いです。



Vol.04 「決定の幅を広げる無限の可能性」 有限会社アクリア 田村柚香里氏 

田村さんの“マテリアルディレクター”という肩書を目にした際、失礼ながら正直にいうと「タイルを中心とした素材のアドバイザーが仕事になるのだろうか?」という印象を持ちました。しかし今回のレクチャーを聞き、その専門知識と豊富な経験が素材の決定に重要な役割を果たす、稀有な職能であることを実感しました。
レクチャーの中で田村さんは素材を次のように分類されていました。
    石や木といった「土着的自然素材」
    コンクリートや金属、ガラスといった「工業的新素材」
    2つの中間にある焼き物などの「中間的素材」

田村さんはこの中間的素材である焼き物のことを、人の手によって「いろ」と「かたち」がつくられる、と表現されていました。自然素材と工業的新素材の間に位置する焼き物は、原料と製造方法、さらに形状・テクスチャー等の組み合わせにより無限の可能性を持っています。

例えば施釉タイルは土や骨材を混ぜ合わせたものに釉薬をかけて焼成しますが、釉薬の配合や焼成の温度によって実に多彩な色合いを生み出すことが可能です。原料や釉薬の特徴から、製造過程の中でどのような色合い・風合いになるかを予想しつつ思考錯誤を繰り返す様はまさに職人・研究者の様であり、素材に対する洞察力と探究心を伺い知ることができました。

田村さんはそのような洞察力・探究心に加え、様々な工場の特性や施工方法・コストに関する知識を熟知しているため、設計者が求めるイメージに限りなく近い、あるいは誰も目にしたことがない一品を的確に選定することができるのだ、ということがわかりました。
焼き物は中間的な素材であるからこそ、つくる「人」が大きな役割を持つ、という一言も印象的でした。

田村さんはまた、岩見沢駅舎でのレンガプロジェクトを始め、各地のまちづくり活動にも大変積極的に取り組まれています。素材に愛着や親しみを持ってもらうための取り組みの一つ、椿の灰を釉薬に混ぜて焼いたというタイルは、その地ならではの素材として地域に根づき、やがて風景となるまちなみが形成できるのではないかと感じました。

決定において無限の可能性の中で、そのあり様を探求したり新しい工法を試みたりする“人の手”が何より重要であること。田村さんには焼き物という素材の特性と魅力を存分に紹介して頂きました。


●レクチャラー紹介
田村柚香里 / YUKARI TAMURA
佐賀県生まれ。福岡女学院卒後、日本航空国際客室乗員部、特注タイルメーカー(株)スカラを経て、2003年(有)アクリア設立 。2005年から(株)ワークヴィジョンズに参画。
主な参加プロジェクトー鉄道博物館(2008年鉄道建築協会賞作品部門特別賞) プラウド横濱山手(2008年度グッドデザイン賞) 旧佐渡鉱山工作工場群跡地広場及び大間港跡地広場(2010年度グッドデザイン賞) 岩見沢複合駅舎(2010年日本建築学会賞)でレンガプロジェクトを担当。

●レポート執筆担当 
依田彩 / AYA YODA
カラープランニングコーポレーション・CLIMAT カラリスト
1977
年生まれ。2000年獨協大学外国語学部仏語学科卒業。
大学卒業後渡仏、カラリスト ジャン・フィリップ・ランクロ教授のアトリエにて研修。
帰国後、都市計画コンサルタント勤務の後、2004CLIMAT入社。
色彩を生かしたより良い環境づくりに従事する傍ら、地元である川崎市でまちづくり活動等にも積極的に参加している。

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