2012年6月11日月曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その3】

MATECOレポート第三弾は、『十人素色-決定の論理-』にご登壇頂いた土木を始めとるする公共デザインがご専門の崎谷浩一郎氏のレクチャーについて、です。
出だしから『ボク、ドボクやってます!』と、やや緊張感に包まれていた会場を一気に和ませて下さった崎谷さんのお話は、とことん使う人の立場を大切にされており、大変スケールの大きな仕事であるにも係わらず、とても細やかな気配りと工夫を重ねられていることが伝わってきました。

レポートその1その2と併せて、ご高覧頂ければ幸いです。


Vol.03 「公共事業と市民を繋ぐ素材と色」 有限会社イー・エー・ユー 崎谷浩一郎氏

「ギリギリまで決めない。」 
これが崎谷さんの決定の論理です。
長崎県五島列島の堂崎教会駐車場の整備を事例に、素材や色については、机上ではなく、ギリギリまで決めずに現場で決めるということを話して頂きました。

対象地は、県が所有する土地と市が所有する土地に分けられているという、公共空間特有の場所でした。その境界線を超えた一体的な水辺の空間として駐車場を整備し、市民が憩うことのできる場所がデザインされていました。

駐車場に配置されたベンチやサインは、市民の手作りタイルでできていました。一枚一枚のタイルには、近くの浜辺にコロがっている貝殻などの模様が写っていて、それらが並べられることで、優しい表情を創り出していたように思います。まさに、現場で生まれた素材と色です。

市民の手が加わるプロセスを踏むことで、あんなにも豊かな表情が生まれるんだなぁと、心がなごみました。デザインの専門家がどんなに試行錯誤しても、なかなかあの表情は創れないのではないでしょうか。

私は、崎谷さんのお話を聞いて、市民が作ったタイル(素材や色)は、彼らと公共事業をゆるやかに繋いでくれているように強く感じました。
「税金の無駄遣い」などと、市民から揶揄されるような姿ではなく、市民の暮らしのなかに溶け込むあの駐車場のような姿こそが、市民と公共事業本来の在るべき姿なのかなぁと実感した次第であります。

素材と色は、そうした公共事業と市民の関係を築くための、一つのツールのように思います。



●レクチャラー紹介
崎谷浩一郎 / KOICHIRO SAKITANI 
1976年佐賀県生まれ。eau代表。
国士舘大学、東北大学非常勤講師・文京区景観アドバイザー・NPO法人GSデザイン会議事務局長・土木系ラジオコアメンバー。2003年から、広場や公園、道路、橋梁、河川など公共空間・土木構造物のデザインを専門とする設計事務所eauを共同主宰。
主なプロジェクトは、*旧佐渡鉱山北沢地区・大間地区広場、*長崎中央橋、**大分竹田白水ダム駐車場・トイレ、長崎五島堂崎地区駐車場など。(*2010年、**2011年グッドデザイン賞)

●レポート執筆担当
長谷川 雄生 / YUKI HASEGAWA
1985年長崎県五島列島に生まれる。
2010年熊本大学大学院自然科学研究科修了後、八千代エンジニヤリング株式会社に入社。
大学院では、土木・景観・デザインについて学ぶ。GSDyメンバー。
入社後の専らの興味は橋梁デザイン。橋について、ゆるりと勉強する毎日。
「楽しまないと楽しいモノはつくれない」をモットーに日々邁進中。


【追記:MATECO代表 加藤幸枝】
 「ギリギリまで決め無い」という崎谷氏の論理は、額面通りに受け取ってしまうといささか短絡的に聞こえてしまうかもしれませんが、私はお話を伺っていてギリギリまで決めないことの裏にはやはりきちっとした机上の検討があるのだ、と感じました。

例えば市民参加のプロジェクトは予測がとても難しいと思いますが、制作の方法やテーマを明確にすることによって触れ幅がある程度コントロールもされています。そうしたデザインというフィルターがかけられることによって、時間や天候の変化とうまくバランスが取られている、と思いました。私は常々、こうした事前の検証や準備なくして、「これでよい」と“適正な”判断をすることは困難であると考えています。

敢えて決定をギリギリまで延ばす、という行為の裏には、計画・現場の隅々にまで係わるための設計者としての真摯なこだわりや良い意味でのしつこさが見受けられました。しなやかな思考と粘り強さは崎谷さんの持ち味のような気がします。考えれば考えるほど、とても奥の深いレクチャーでした。

0 件のコメント:

コメントを投稿