2012年5月25日金曜日

第一回勉強会を終えて -その1

2012512日(土)に実施しました素材色彩研究会・MATECOの第一回勉強会について、全体の流れと意見交換のことを記しておこうと思います。
421日(土)に実施しました『十人素色-決定の論理-』では、建築・土木デザイン・ランドスケープデザイン等、様々な専門分野の方々にお集まり頂き、素材や色彩を決定する際の論理について語って頂きました。

今回の勉強会では環境色彩デザイン事務所・CLIMATの仕事から『どのように素材や色彩を選定して行くか』という、決定以前の提案のプロセスやヴァリエーションのつくり方、そしてその考え方の基盤となる色彩学の基礎がなぜ必要か等のテーマを挙げ、環境色彩デザイン事務所・CLIMATのスタッフが事例等を紹介、参加して下さった皆さんの質問に答えつつ議論を深めていく、という形式で進行しました。

以下にまとめその1として、話題提供させて頂いた項目を整理してみました。終えてみてしみじみ感じたのは、一回の議論で結論が出せる・明確にできる訳ではもちろんなく、体験と共により深めていかなければならない部分が数多くある、ということでした。次回以降はもう少し的を絞りつつ視点を拡げ、素材・色彩の選定の論理や次の可能性について検証を重ねていきたいと思っています。
後半の具体的事例にみる色彩計画の役割と後半議論になったポイントについても、その2として順次公開していきます。第二回の勉強会に向けより深度のある議論のために、是非ご意見・ご感想を頂けると幸いです。どうぞ宜しくお願い致します。

2012525日 MATECO代表 加藤幸枝


会場の様子

参加者して下さった皆さんには自己紹介と共に、素材や色彩との係わりを語って頂きました

環境色彩デザイン事務所CLIMATからの話題提供(概要)

●はじめに~色彩学とは?
色彩学は様々な他の学問と多様な係わりを持っている。調査・研究の対象であり、表現・演出・創造の基盤、社会現象(流行)・文化・歴史の検証にも重要な役割を果たす。応用される分野も多岐に渡り、光学・教育・芸術・生産・管理・デザイン(Web・グラフィック・ファッション・プロダクト・インダストリアル・建築・インテリア)…と、実に多様で分野ごとに必要な知識や技能・技術が細分化されている。例えば自動車のカラーデザインは流行色や塗装技術の開発・普及(粉体塗装・偏光メタリック)等と密接な係わりを持ち、独自に色彩デザインの方法論や技術開発が探究されてきた分野の一つである(カラーデザインが専門職として独立している)。

またカラーコーディネートという概念はこれまで、ファッションや商品開発・インテリアデザイン等、パーソナルな範疇での提案とその充実に重きが置かれてきた。カラーコーディネートという手法は個の・私的な満足度を、あるいは顧客・消費者に対する訴求力を高めるための手段という意味合いが強かったが、昨今は群におけるまとまりと変化の形成や分野間をつなぐ役割としてその効能が認知されつつあると感じている。

建築・都市・土木デザイン等の分野に関しては、色彩学の社会学・美学・化学・心理学・生理学等が相互に影響し合い、それぞれに深い係わり持つと考えられるが、設計行為のための相対的な教育としての取り組みは殆ど行われていないのが実情ではないだろうか。
色が持つ構造や基本的な特性を理解すること、効果を知って“より適切な”選定を行うこと。素材色彩研究会MATECOではそのために必要な経験の共有を目指し、定期的に勉強会や見学会を企画していく。

●比較・検証・選定の拠り所となる色のものさしについて
空間の成り立ちにふさわしい適正な寸法があるように、色も表色系(カラーモデル)を用いて数値化し、共通のものさしとして客観的に表すことが可能である。アメリカの画家Albert.H.Muncell18581918)創案したマンセル表色系は、1943年にアメリカ光学会に修正マンセルとして発表され、測色管理に適したシステムとして日本でもJISに採用されている。

マンセル表色系では色を色相(いろあい)・明度(あかるさ)・彩度(あざやかさ)という3つの属性に分解し、1色を表す。JIS標準色票に記載されているのは2163色だが、ヒトは少しの訓練で約700万色を見分けることが可能な能力を持っている。色数は無限である、とはよく言われることだが、700万色という数字を眼前にすると0.51.0刻みのマンセル色票集が実は非常に大まかなスケールであるということが実感できる。

だが建築でしばしば用いられる身体性という問題に色彩をあてはめてみると、色という時間や照明条件等により刻々と変化する現象を例えば小数点以下2ケタの単位で捉えることに(日常生活においては)殆ど意味は無い。空間を体感する際のスケール感と同様に、色のスケールにも身体感覚との適・不適があり、当然個人差も生じる。

数値はあくまで表記・伝達・管理のための手段であり、分野により必要な精度や厳密さの幅を踏まえつつ、都度ふさわしいものさしを用いればよいと考えている。建築や土木デザイン等が扱う規模に対しては、マンセル表色系が持つ40色相の明度・彩度が色の基本的な構造である、ということが理解出来ていれば充分ではないだろうか。

●色彩調査のデータから何が導き出せるのか?
私達はどのような場合においても、対象となる場周辺の色彩調査を行うことを基本としているが、そのデータから何を読みとるのか、と聞かれることが多くある(勉強会でも同様の質問を頂いた)。環境色彩調査は対象物(建物の外壁や屋根等)から色を数値化して読み取り、その環境が持っている色彩構造を明らかにすることが目的である。

例えば基調色が暖色系の高明度・低彩度でまとまっているという傾向が読み取れれば、それがその地域の基調としてまとまりや連続性を保持している、と考えることができる(但し、形態や素材の差異によってそのようには感じられないこともしばしば)。仮に測色値の集計に一定の傾向が見られない場合でも、規則性が無い・多色が使われているという結果を得ることができる。それらの現地の・現況が持つ色彩の特性から、新しく付加するものが“どのようにあるべきか”というストーリーを組み立てていくのである。

昨年GSDyのサロンでもお話したことだが、私達は行けるところまでは徹底的に理詰めで考える。(景観計画等の)上位計画・周辺環境が持つ色彩やその特徴・(建築物であれば)建築設計者の設計方針、デザイン意図・用途の特性・コスト…。そうした余条件はいわばフィルターであり、無限にある色を幾重ものフィルターでろ過していくことによって、適正な素材・色彩を導き出すということを考えている。

●景観法に基づく色彩の規制とその実効性
平成16年に策定された景観法は色彩を数値で規制する、という明確な(※厳密には明確にはしづらいものの)基準を設けたことにより、著しく景観を阻害する要因となる派手な色・圧迫感の強い低明度色を出現させないことに対して一定の効果を挙げている。いわゆる騒色(そうしょく)を取り除くためのネガティブ・チェックとしての機能である。

ところが実際に運用していくと基準内の色を使っているが良好な景観とは言い難い例や、周辺との関係で考えると基準を超えてしまうが景観の阻害要因とまでは言えないのでは、という例が続々と出現することも明らかになってきた。各自治体が策定している色彩基準の殆どは、現況調査に基づき概ね8割以上が適合する数値基準を採用しており、積極的に良好な景観を形成していくためには景観形成基準の意図するところを丁寧に読み解き、建築の規模・形態・意匠に沿った素材・色彩を創造的に検討・展開するための“配慮や工夫”が求められている。

この配慮・工夫は決して行政指導に対する対抗策ではなく、その地にあるべき姿を設計者の立場からはもちろんのこと、市民とそのまちの将来を担う“良好な環境の創造”に大きく寄与するものであり、そうした多角的な配慮による成果(=新しい計画によって形成された良好なまちなみ)が事業者にとっても有益に働くことを証明するための作業でもある。

●なぜ選定に理由が必要なのか?
先に述べたように、建築設計を例に挙げてみても多様な視点からの評価点(基準)があり、多くの関係者の利害(金銭的な意味だけでなく)に係わる計画には、当然のことながら説明責任が生じる。また、計画を進める段階においても規模が大きくなるほど、あるいは公共の施設や再開発など長期に渡り多くの機関との調整が必要となる場合には、なぜその素材・色彩がふさわしいのかということを出来るだけ明確にするべきであると考えている。

様々な余条件の検証から導き出すという方法論は、一個人が嗜好やその場の雰囲気によって決めたことよりも明らかに説得力を持ち、地域や場が持つ特性を強化したり尊重したりする姿勢は多くの市民から共感を得られやすい。
私達の暮らしを取り巻く環境には新しい創造は不可欠であるが、それが創造という名の元に一般には受け入れがたい、あるいは地域の現況を無視した特異なもの・主張すべきものであるべきかどうかは慎重に判断しなければならない。環境を取り巻く素材や色彩は視覚に大きな影響を与えるが、それに囚われ過ぎると地域やその環境が持つ文脈、対象の規模や形態等から剥離し違和を感じさせる要因となりがちである。

選定の理由を揺るぎなく整えることにより、時代性・環境性・美観性・耐久性・意匠性・歴史性…といった様々な視点をバランスよくより高い次元で満足させることが可能なのではないかということを考え、実践し続けている。

<つづく>

0 件のコメント:

コメントを投稿