2012年4月25日水曜日

『十人素色-決定の論理-』を終えて


去る2012421日(土)、素材色彩研究会MATECO設立記念レクチャーは無事に閉幕致しました。
10組のレクチャラーの方々を始め、ご参加下さいました皆様、本当にありがとうございました。
本年1月に企画を立ち上げ、22日に本研究会は発足しました。そこから約2カ月でレクチャーの準備を進めて参りましたが、多くの方が会の主旨にご賛同下さり支援して下さったこと、心から感謝しております。ありがとうございました。

『十人素色-決定の論理-』と題したレクチャーは、まず10組の方に10分ずつのプレゼンテーションをして頂きました。照明、サインデザイン、土木デザイン、マテリアル、建築写真。前半の5名が終了した時点で、実に多様な決定の論理が浮かび上がって来ました。が、それはただいたずらに自由で・多様であるわけではなく、やはりその場の状況や条件、そしてある場面では『決定を出来るだけ先延ばしにする』ことによって、プロジェクトが成り立っている(崎谷浩一郎氏)、という論理も明らかにされました。

岡安泉氏の“空間の色で光の色を補正する”、八島紀明氏の“なぜこの色なのかをロジックで解く”、田村柚香里氏の“火を入れるというプロセスにより様々な表情をうみ出す焼き物”、小川重雄氏の“神様がシャッターを押せ、という瞬間を待つ”…等々、全て対象に向けてのアプローチは異なるものの、瞬間の判断や現場での微調整といったことが全て日々の鍛錬(=物事を見極める力)の賜物であることを伺い知ることが出来たのではないかと思います。

会場(ヒルサイドテラス・サロンウエスト)の様子
こうした分野間の横断はMATECOの 重要なテーマなのですが、異なる分野同士の調整手法や専門性に対する解釈の方法・スタンスなど、実際のプロジェクトを通して語られる言葉はいずれも深く重 みを感じさせるものでした。後の参加者からの質問でも取り上げられた点ですが、協働とは決して一方的に押しつけたり容易に受け入れたりすることではなく、 相互に影響を与えあう中で他者の存在から己の存在を浮かび上がらせていくような、非常にセンシティヴで時に多大な忍耐を必要とする作業なのだ、ということ も垣間見られました。

後半はグラフィック、アート、建築、ランドスケープの専門家が登壇、中でも北川一成氏の色を見極め、コントールする超絶的な能力には圧倒されました。会場に実際の印刷物を持参して下さり、紙の違いによる色の見え方の変化や氏がデータを取り続けているという経年変化の様子まで、大変丁寧に解説して頂きました(まさに目指していた手触りのあるレクチャー!)。北川氏の“工学系も一度ちゃんと色彩学やったらエエと思う”という一言には思わず心の中でガッツポーズ…をしてしまいました。

ペインティングを専門とする流麻二果氏はホテルのリノベーションに併せ、5つの客室に5つのテーマ・色を使い空間デザインに併せて作品を制作したプロセスを紹介して下さいました。設置される空間の特性を考えながら作品をつくるという行為がアーティストにとって“気持ちの切り替え”を要する行為であること、そうした取り組みにご自身が興味を持っていることがとても素直に伝わって来ました。

403architecture[dajiba]は浜松に拠点を構えてから僅か一年の間に手掛けた5つのプロジェクトが紹介されました。マテリアルの流動という独自の方法論を用いた彼らの素材の選定方法は、それが様々な条件によるものでありながらも大変自由でおおらかです。
ランドスケープの熊谷氏のプレゼンテーションはプロジェクトの規模毎にXS~XLという5つのカテゴリーに分類され、ランドスケープデザインという職能の守備範囲の広さ、それに比例するように依頼の内容も多彩であることが語られました。そうした多様なスケールを扱っているにも係わらず、氏の仕事はいずれも人の目線に対し大変細やかで、緻密なデザインワークをされていることが伝わって来ました。

建築の川添善行氏からは、建築の色は何によって決定づけられるべきかということが語られ、そこで述べられた文脈、というキーワードが後半のクロストークでは全体に展開され、より一層奥行きのある議論になったのではないかと感じています。
後半のクロストーク、会場での懇親会へと、実に5時間半の長丁場でしたが、人生初の司会進行は最初に宣言してしまったせいか、皆さんに温かく見守って頂き、無事に大役を務めることが出来ました。このクロストークの様子も併せて、各レクチャラーのプレゼンテーションの内容やMATECO箱については、今後スタッフ間で分担しながら出来るだけ早急に公開していきたいと思いますので、どうぞお楽しみに。
レクチャラーの方々に作成して頂いたMATECO箱・設置中の様子
素材色彩研究会・MATECOの発足は、私が昨年GSDyサロンに招かれ、マテリアルディレクターの田柚香里氏と出会ったことが発端となっています。その後、浜松での対談『建築家と白について』、JLF(日本ランドスケープフォーラム)で『自然が映える色・自然に馴染む色』というテーマでレクチャーを行う等、連続して建築や都市、土木デザイン、ランドスケー プデザインを専門とする方々と対話をする機会に恵まれましたが、自身の職能が未だ多くの専門家に知られていない・あるいは誤解を受けていること、学生に とっては学びたくてもそうした授業や演習を受講する術がないという実情を知ることとなりました。

そ うした数々の出逢いの中で、空間を・環境を・まちをつくる上で、素材と色彩に出来ること・すべきことは何だろうか?自分達の経験や技術が様々な専門分野に おいてどのように活用され、創造に寄与できる可能性があるのか?という議論を、この二カ月半の間運営スタッフと繰り返し行い、周知・ストック・創造、というMATECO活動の柱を組み立てました。

設立記念の場において参加して下さった方々に対し、適正な問いを立てられたかどうか。実のところ、未だ自信は持てずにいます。その答えは本会が活動を続けて行く中で、明らかにされていくことでしょう。

そのMATECO活動の柱の一つ(周知)である勉強会は、来る512日(土)に第一回目を開催いたします。環境色彩デザインを専門とするカラープランニングコーポレーション・CLIMATのスタッフが環境や地域の歴史・文化といった文脈の読み解き方、色彩デザインの方法論を紹介し、参加して下さる方々と広く議論を進める会にしたいと考えています。

カラープランニングコーポレーション・CLIMATの仕事は色彩学における色彩調和論を基本としていますが、アウトプットは単なるカラーコーディネートではありません。周辺の環境や特性を読み解き、背景・近隣にあるものとどのような関係性を構築していくべきか。さらに、特に屋外では対象物以外の要素、自然景観や屋外広告物、舗道・ストリートファニ チャー等、他の要素と繋ぐべき事柄の抽出、時には改善を行っていきます。
対象は公園のゴミ箱一つから都市まで。環境色彩デザインにも様々なスケールとオーダーがあります。

MATECO勉強会はセミナーではなく、参加して下さる方の日々の課題を共に考える会です。
学生の方、大歓迎です。是非ご参加下さい。

2012年4月25日
MATECO代表 加藤幸枝

当日のつぶやきをtogetterにまとめてあります。会場の雰囲気など、ご参考まで。


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