2012年6月29日金曜日

MATECOレポート 【素材と色彩のTA‐MATECO箱】

4月21日に開催致しました『十人素色-決定の論理-』では、ご登壇いただいた10組のレクチャラーの皆さんに素材と色彩をご持参頂きました。

展示の方法を考えた結果、小さな桐の箱を用意し、その中にこれまでに手がけられたプロジェクトやご自身の専門分野に欠かせない『素材と色彩』を詰めて頂くこととしました。

た・まてこ・はこ→玉手小箱、といささかダジャレ混じりではありますが、大真面目に、素材と色彩の多様な魅力を伝えたい、そして様々な決定の方法論・論理を視覚的な情報として ストックしていきたい、という思いから生み出された展示の方法であり、あえて箱に共通のモジュールを用いることにより、中身を一層際立たせることができる のでは、と考えました。

当日会場では多くの方が手に取られていました。素材と色彩のリアルさ、そして豊かさを体感して頂ける展示になったと思います。
以下、レポートと同様、ご登壇頂いた順に前半5組の方のMATECO箱をご紹介します。


岡安泉 / IZUMI OKAYASU
照明の主流がLEDに変わりつつあります。
それは組み合わせる素材の自由度が高まったことでもあります。
アクリルだったり、布だったり、紙だったり。光の制御もレンズによって容易なものになりました。
照明の環境は、これから大きく変動します。
→岡安氏のレクチャーの様子はこちら




八島紀明 / TOSHIAKI YASHIMA
サイン計画の大きな特徴は、ミリ単位の文字から10 数メートル単位に至る、大小の色彩や素材、文字を扱うことにあります。また、建築建材から紙媒体、デジタル媒体に至るまで、多種多様な素材や媒体を用い、それらのことに知悉・精通していることが求められます。
近年では防火対策や経済状況の問題もあり、人工的な建材を用いることを要求されることが多くなりました。
箱の中身を見ていただくとその傾向が理解いただけると思います。
→八島氏のレクチャーの様子はこちら



崎谷浩一郎 / KOICHIRO SAKITANI 
『解は現場にある』 ※解と貝、が“かかって”います
→崎谷氏のレクチャーの様子はこちら



田村柚香里 / YUKARI TAMURA
素材と素材をつなぐ欠かせない「名脇役」
MATECO箱に何をつめようか
「せっ器」「磁器」 「施釉」「無釉」
「好きな色」「お気に入りのテクスチャー」
「原料」「試作段階のテストピース」
あれでもない、これでもない・・・
たくさんのモノの中から絞り込んで、最後に残った大事なモノ
ぴったり決まると心地いい
 素材と素材をつなぐ「目地」
→田村氏のレクチャーの様子はこちら



小川重雄 / SHIGEO OGAWA
和歌浦アートキューブ(下吹越武人さん設計)のガラス
ファサードの内側には、銅板で被覆された可動ルーバーがある。
ジグザグに設置されたガラスには周辺の松林が映り込み、銅板と不思議なレイヤーを形成する。
その状況を捉えた写真を万華鏡のように設え、遊んでみようと思った。
銅板、ガラス、松林、青空、白い雲。最後のレイヤーは実体であるアクリルキューブ。
この桐箱の中で自由に動かして楽しんでほしい。
→小川氏のレクチャーの様子はこちら




いかがでしたでしょうか。
決定の論理を裏付けるような、素材と色彩の数々。どうか改めてレクチャーのレポートと併せて、ご堪能下さい。

引き続き、後半5組の方のレポートを順次公開していきます。どうぞお楽しみに。

2012年6月17日日曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その5】

MATECOレポート第五弾は、『十人素色-決定の論理-』にご登壇頂いた建築写真家・小川重雄氏のレクチャーについて、です。
まちを・建築を見るという行為そのものとも言える小川氏の写真は、私たちに対象を見る・見極めることの大切さや意味を提示して下さったように思います。見極めるためには経験がものを言い、けれども二度と同じ瞬間は訪れないという矛盾があり、瞬間を切り取ったものであるにも係わらず、そこには膨大な“時間”が刻み込まれている、と感じました。

私見で恐縮ですが、写真や建築について終始少年のように目を輝かせてお話して下さった様子が大変印象に残っています。誰に対しても大変気さくで、運営にあたった私たちスタッフにも積極的に声を掛けて下さいました。 挙句、気がつけばなんと会場の後片づけを手伝う姿をお見かけし大慌て…、という一幕もありました。

参加者からは『いつか小川さんに自分が設計した建物の写真を撮ってもらいたい』という声も聞かれ、お仕事の素晴らしさも然ることながら、それが氏のお人柄に裏打ちされたものであることにもすっかり魅了されてしまいました。

ポートその1その2その3その4とも併せて、ご高覧頂ければ幸いです。

2012年6月10日 MATECO代表 加藤幸枝


Vol.05 「写真の神様がシャッターを押せ、という瞬間を待つ」 小川重雄氏
 
建築写真家の小川重雄さんのレクチャーは息をのむような美しい写真の連続でした。和歌の浦アートキューブでは、銅板で被覆された可動ルーバーと空・雲・木が映り込んだガラスに光が加わり、それだけで屏風のように美しい状況がつくりだされていました。

ねぶたの家ワ・ラッセでは、赤い鉄板がより輝いて見える夕日の瞬間や、フォンタナの作品のようにひねり仕上げの鉄板を光がなめる絶妙なタイミングが選択され、聖ベネディクト教会では、木片が雨にぬれて黒ずんだり日が照って明るい茶に戻ったりと天候で見え方変わる様子や、つや消しシルバーに塗装された壁と柱の間をハイサイドライトだけで取り入れた光が通り、柱が浮いて見える様子が見事に写し撮られていました。 

小川さん曰く、写真を決定づけるのは光であり、写真家の仕事とは建築がもっているものの素材に光が加わりその瞬間にしか見えないシーン、まるで神様が横に来て「今シャッターを切りなさい」とでも言っているかのように現れる千載一遇の素晴らしい光の状況を選ぶことなのだそうです。
用意された10枚きっかりのスライドに小川さんの美しい光のシーンを見極めようとする写真に対する真摯な姿勢を感じました。

最近のカメラは性能がよくなり誰でもそれなりにうまい写真を撮ることが可能になり、後で修正もできてしまうので、そこにはフィルムカメラでシャッターを切るときのような緊張感はなく、私はそんな文明の力に甘んじてついつい適当にシャッターを押しがちです。

写真を撮るという行為は自分なりのものの見方を示し、それを鍛える道具であるとも思いますが、小川さんの美しい写真を見せていただき、自分は写真を撮ることでどれだけ審美眼を養えているのかと振り返るきっかけとなりましたし、さらには色や素材がもっと美しく輝く瞬間を自分の目でも見てみたいという気持ちになりました。

建築などの変化しないものに光などの変化する自然現象が加わって作り出される最高の瞬間は、日々の鍛錬によって磨かれた審美眼により決定づけられるのだと感じています。小川さん、貴重なお写真を見せていただき本当にありがとうございました。


●レクチャラー紹介
小川重雄 / SHIGEO OGAWA
1958 東京生まれ
1980 日本大学藝術学部写真学科卒業
1986 株式会社新建築社入社、1991年より写真部長
2008 小川重雄写真事務所設立、現在に至る
2011 岩見沢複合駅舎の写真展 『パースペクティブ・アーキテクチュア』開催。国内外の建築を撮影、雑誌やWebで写真を発表している

●レポート執筆担当          
中村麻子 / ASAKO NAKAMURA
1988年生まれ。多摩美術大学 美術学部 環境デザイン学科 建築専攻4年 
建築を中心にインテリアデザインからランドスケープデザインまで、様々な視点から環境デザインを学ぶ。すいどーばた美術学院建築科出身。
幼い頃からの色彩への強い関心と、生まれ育った新宿の景観を良くしたいという思いから環境色彩に興味をもち、中学2年時での色彩検定3級取得以来、現在も色彩関連の資格取得に向けて勉強中。
主な参加したワークショップやプロジェクトに、産学官共同えどがわ伝統工芸プロジェクト2009AAschool workshop 2010Landscape Design Student Exhibision 2010 、横浜ハーバーシティスタディーズ201120124月よりGSDy会員。

2012年6月15日金曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その4】

MATECOレポート第四弾は、『十人素色-決定の論理-』にご登壇頂いたマテリアルディレクター・田村柚香里氏のレクチャーについて、です。
タイルやレンガに並々ならぬ愛情と知識、さらに人や場を繋いでいく不思議なパワーをお持ちの田村氏と色彩を専門とする加藤(共にMATECO代表)との出会いが、素材色彩研究会・MATECO設立のきっかけとなっています。

その出会いの場とは2011年GSDyのサロンで行われたミニシンポジウムです。当時の様子や参加して下さった方々の感想等は『風景を醸し出すディテール-素材・色彩から考える風景』の報告書にまとめられています。
ポートその1その2その3とも併せて、ご高覧頂ければ幸いです。



Vol.04 「決定の幅を広げる無限の可能性」 有限会社アクリア 田村柚香里氏 

田村さんの“マテリアルディレクター”という肩書を目にした際、失礼ながら正直にいうと「タイルを中心とした素材のアドバイザーが仕事になるのだろうか?」という印象を持ちました。しかし今回のレクチャーを聞き、その専門知識と豊富な経験が素材の決定に重要な役割を果たす、稀有な職能であることを実感しました。
レクチャーの中で田村さんは素材を次のように分類されていました。
    石や木といった「土着的自然素材」
    コンクリートや金属、ガラスといった「工業的新素材」
    2つの中間にある焼き物などの「中間的素材」

田村さんはこの中間的素材である焼き物のことを、人の手によって「いろ」と「かたち」がつくられる、と表現されていました。自然素材と工業的新素材の間に位置する焼き物は、原料と製造方法、さらに形状・テクスチャー等の組み合わせにより無限の可能性を持っています。

例えば施釉タイルは土や骨材を混ぜ合わせたものに釉薬をかけて焼成しますが、釉薬の配合や焼成の温度によって実に多彩な色合いを生み出すことが可能です。原料や釉薬の特徴から、製造過程の中でどのような色合い・風合いになるかを予想しつつ思考錯誤を繰り返す様はまさに職人・研究者の様であり、素材に対する洞察力と探究心を伺い知ることができました。

田村さんはそのような洞察力・探究心に加え、様々な工場の特性や施工方法・コストに関する知識を熟知しているため、設計者が求めるイメージに限りなく近い、あるいは誰も目にしたことがない一品を的確に選定することができるのだ、ということがわかりました。
焼き物は中間的な素材であるからこそ、つくる「人」が大きな役割を持つ、という一言も印象的でした。

田村さんはまた、岩見沢駅舎でのレンガプロジェクトを始め、各地のまちづくり活動にも大変積極的に取り組まれています。素材に愛着や親しみを持ってもらうための取り組みの一つ、椿の灰を釉薬に混ぜて焼いたというタイルは、その地ならではの素材として地域に根づき、やがて風景となるまちなみが形成できるのではないかと感じました。

決定において無限の可能性の中で、そのあり様を探求したり新しい工法を試みたりする“人の手”が何より重要であること。田村さんには焼き物という素材の特性と魅力を存分に紹介して頂きました。


●レクチャラー紹介
田村柚香里 / YUKARI TAMURA
佐賀県生まれ。福岡女学院卒後、日本航空国際客室乗員部、特注タイルメーカー(株)スカラを経て、2003年(有)アクリア設立 。2005年から(株)ワークヴィジョンズに参画。
主な参加プロジェクトー鉄道博物館(2008年鉄道建築協会賞作品部門特別賞) プラウド横濱山手(2008年度グッドデザイン賞) 旧佐渡鉱山工作工場群跡地広場及び大間港跡地広場(2010年度グッドデザイン賞) 岩見沢複合駅舎(2010年日本建築学会賞)でレンガプロジェクトを担当。

●レポート執筆担当 
依田彩 / AYA YODA
カラープランニングコーポレーション・CLIMAT カラリスト
1977
年生まれ。2000年獨協大学外国語学部仏語学科卒業。
大学卒業後渡仏、カラリスト ジャン・フィリップ・ランクロ教授のアトリエにて研修。
帰国後、都市計画コンサルタント勤務の後、2004CLIMAT入社。
色彩を生かしたより良い環境づくりに従事する傍ら、地元である川崎市でまちづくり活動等にも積極的に参加している。

2012年6月11日月曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その3】

MATECOレポート第三弾は、『十人素色-決定の論理-』にご登壇頂いた土木を始めとるする公共デザインがご専門の崎谷浩一郎氏のレクチャーについて、です。
出だしから『ボク、ドボクやってます!』と、やや緊張感に包まれていた会場を一気に和ませて下さった崎谷さんのお話は、とことん使う人の立場を大切にされており、大変スケールの大きな仕事であるにも係わらず、とても細やかな気配りと工夫を重ねられていることが伝わってきました。

レポートその1その2と併せて、ご高覧頂ければ幸いです。


Vol.03 「公共事業と市民を繋ぐ素材と色」 有限会社イー・エー・ユー 崎谷浩一郎氏

「ギリギリまで決めない。」 
これが崎谷さんの決定の論理です。
長崎県五島列島の堂崎教会駐車場の整備を事例に、素材や色については、机上ではなく、ギリギリまで決めずに現場で決めるということを話して頂きました。

対象地は、県が所有する土地と市が所有する土地に分けられているという、公共空間特有の場所でした。その境界線を超えた一体的な水辺の空間として駐車場を整備し、市民が憩うことのできる場所がデザインされていました。

駐車場に配置されたベンチやサインは、市民の手作りタイルでできていました。一枚一枚のタイルには、近くの浜辺にコロがっている貝殻などの模様が写っていて、それらが並べられることで、優しい表情を創り出していたように思います。まさに、現場で生まれた素材と色です。

市民の手が加わるプロセスを踏むことで、あんなにも豊かな表情が生まれるんだなぁと、心がなごみました。デザインの専門家がどんなに試行錯誤しても、なかなかあの表情は創れないのではないでしょうか。

私は、崎谷さんのお話を聞いて、市民が作ったタイル(素材や色)は、彼らと公共事業をゆるやかに繋いでくれているように強く感じました。
「税金の無駄遣い」などと、市民から揶揄されるような姿ではなく、市民の暮らしのなかに溶け込むあの駐車場のような姿こそが、市民と公共事業本来の在るべき姿なのかなぁと実感した次第であります。

素材と色は、そうした公共事業と市民の関係を築くための、一つのツールのように思います。



●レクチャラー紹介
崎谷浩一郎 / KOICHIRO SAKITANI 
1976年佐賀県生まれ。eau代表。
国士舘大学、東北大学非常勤講師・文京区景観アドバイザー・NPO法人GSデザイン会議事務局長・土木系ラジオコアメンバー。2003年から、広場や公園、道路、橋梁、河川など公共空間・土木構造物のデザインを専門とする設計事務所eauを共同主宰。
主なプロジェクトは、*旧佐渡鉱山北沢地区・大間地区広場、*長崎中央橋、**大分竹田白水ダム駐車場・トイレ、長崎五島堂崎地区駐車場など。(*2010年、**2011年グッドデザイン賞)

●レポート執筆担当
長谷川 雄生 / YUKI HASEGAWA
1985年長崎県五島列島に生まれる。
2010年熊本大学大学院自然科学研究科修了後、八千代エンジニヤリング株式会社に入社。
大学院では、土木・景観・デザインについて学ぶ。GSDyメンバー。
入社後の専らの興味は橋梁デザイン。橋について、ゆるりと勉強する毎日。
「楽しまないと楽しいモノはつくれない」をモットーに日々邁進中。


【追記:MATECO代表 加藤幸枝】
 「ギリギリまで決め無い」という崎谷氏の論理は、額面通りに受け取ってしまうといささか短絡的に聞こえてしまうかもしれませんが、私はお話を伺っていてギリギリまで決めないことの裏にはやはりきちっとした机上の検討があるのだ、と感じました。

例えば市民参加のプロジェクトは予測がとても難しいと思いますが、制作の方法やテーマを明確にすることによって触れ幅がある程度コントロールもされています。そうしたデザインというフィルターがかけられることによって、時間や天候の変化とうまくバランスが取られている、と思いました。私は常々、こうした事前の検証や準備なくして、「これでよい」と“適正な”判断をすることは困難であると考えています。

敢えて決定をギリギリまで延ばす、という行為の裏には、計画・現場の隅々にまで係わるための設計者としての真摯なこだわりや良い意味でのしつこさが見受けられました。しなやかな思考と粘り強さは崎谷さんの持ち味のような気がします。考えれば考えるほど、とても奥の深いレクチャーでした。

2012年6月8日金曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その2】

MATECOレポート第二弾は、『十人素色-決定の論理-』にご登壇頂いたサインデザインの八島紀明氏のレクチャーについて、です。
誘導・案内という機能を持つサイン計画が、環境や空間に対しいかに細やかな配慮を必要とする仕事であるか、たくさんの事例を交えご紹介いただきました。

レポートその1と併せて、ご高覧頂ければ幸いです。


Vol.02 「サインデザインの決定の論理」 八島デザイン事務所 八島紀明氏

「十人素色‐決定の論理」は多分野の方からのお話しがとてもいい刺激になりましたが、いくぶん刺激が強すぎて消化するのに時間がかかってしまいました。
八島さんは論理的にデザインの仕事をする方で、プレゼンテーションからもその姿勢が伺えました。
冒頭でサイン計画とは・情報とは、を再定義し、そのロジックの上にサインデザインという仕事を構築なさっているようでした。
また同じく冒頭での「花がなぜ目立つのかというのは、花びらの造形と色彩のみならず、背景のグリーンとの関係性によって花びらが風景の中から立ち上がるから」という説明がとても印象に残っています。

仕事の上で、デザイナーが完成させるのは形ある「モノ」だけれど、本質的に大切なのは「モノ」と「モノ」との関係性なのだな、と思いました。

後のお話で、その土地に内在する風景色を引用しサイン計画を検討した例は、図と地のバランスの中で色がとても印象的に整えられていました。
それは沖縄のプロジェクトだったのですが、その場において主役になる色が別のところにあるとき、意図的に背景になるようなカラーリングを考える等、周辺環境との関係性を踏まえたデザインの工夫がなされていました。
一部には琉球ガラスを用いたサインが展開され、その土地の歴史と文化を汲むことにより、モノとしてのデザインを離れ、沖縄という土地とデザインとが互いに共鳴しているように感じられました。

モノだけではなく関係性が大事、というのはサイン計画のみならず、建築、プロダクト、平面上のデザインなど多岐において通ずる話だと思います。

例えば、人がまちを歩いているとき、たった1つの建物だけでそのまちの印象が決まるのではありません。そうではなくて、建物同士がつくるまち並み、街路樹、人の声、果ては天気や自分の身体感覚などに影響され、その人の、そのまちに対する印象が決まります。

なにかをデザインする時は、自分の専門領域にだけ目が行きがちですが、デザインを受け取る側の人からすれば、○○デザイン、□□デザイン、というような世界の分断の仕方をしておらず、むしろそれらが織りなす複雑な関係性を知覚しているのだな、と思います。

また、モノとモノとの良好な関係性を構築する上で、色彩が重要な要素の1つになるのではないか、と感じました。
デザインが完成して、それでデザイナーの仕事が完了するわけではなく、そのあとも残り続ける「モノ」のことを考え、見届け続けることも建築家やデザイナーの責任なのだとも思いました。



●レクチャラープロフィール
八島紀明 / TOSHIAKI YASHIMA
1970 三重県鈴鹿市生まれ
1994 法政大学法学部法律学科卒
1995 - 1996 ホテルインターコンチネンタル東京ベイ フロントマン
1996 - 1998 菜々六工房
1998 - 2000 株式会社 びこう社
2000 - 2001 株式会社 イリア
2002 - 2009 有限会社 井原 理安デザイン事務所
2009 株式会社 八島デザイン事務所設立
ソニー本社ビル(ソニーシティ)サイン計画 (SDA賞 入選)/東京ミッドタウン サイン計画 (SDA賞 入選)等、受賞歴多数。
 
●レポート執筆担当
藤原由智 / YOSHITOMO FUJIWARA
武蔵野美術大学造形学部 基礎デザイン学科三年。
考えるのもつくるのも好きです。
最近は「風土性/土地性、とデザイン」をキーワードにいろいろ考えています。
「日本的なデザインとは」「土地固有の文化とは」など。
大学の先生の指導のもと、茨城県笠間市のデザインプロジェクトに参加しています。

2012年6月5日火曜日

MATECO第一回見学会-タイル工場見学会参加募集のお知らせ

素材色彩研究会MATECOでは、来る2012年6月23日(土)・24日(日)、マテリアルディレクター・田村柚香里氏(MATECO代表)及び多治見のタイル組合全面協力のもと、工場見学会を実施します。
募集要項は以下の通りです。複数の工場を効率よく回り、工場の方々に直接お話を聞くこともできる、大変貴重な機会です。また24日には建築家・磯崎新氏設計のセラミックパークMINOを尋ね、作陶を体験して頂くメニューも用意しています。

建築や都市、まちを構成する重要な要素でもある焼き物。生産地・制作の場を尋ね、未来のものづくりの在り方や可能性について、是非一緒に考えてみませんか。


●概要
国産タイルの生産地、岐阜県多治見市や愛知県瀬戸市にあるせっ器質タイル・磁器質タイル等の各工場の他、設計者でも滅多に見ることが出来ない釉薬や鋳込みの工場も見学できる贅沢なツアーです。
原料や製法、工場の特性を熟知したマテリアルディレクター・田村柚香里氏の案内のもと、多くの素材・色彩と触れ合い、創造と表現の可能性を探求しましょう。
23日(土)夜の懇親会では、『端材利用の可能性』『形状と面状のデザイン』等、幾つかのテーマを用意し、見学時に感じたタイルという素材の可能性について、座談会を開催したいと思います。奮ってご参加下さい。



●日程
6月23日(土)~24日(日) ※日帰り参加も可能です

●参加申し込み
必要事項を記入の上、メール(下段に記載)にてお申し込み下さい。
お名前(ふりがな)、連絡先、所属、土曜一日・両日参加いずれかのご希望。


●定員:20名(先着順)

●参加費:
宿泊・一日目の昼食/夕食・二日目の朝食代として、7,000円。
※土曜のみ参加の方は一日目の昼食代のみ(1,000円)となります。

●宿泊先
多治見市内のビジネスホテル(調整中)。お申込み頂いた際、詳細をご連絡します。

●現地までの交通
高蔵寺駅(JR中央本線・名古屋駅から32分)現地集合、土日とも多治見駅(JR中央本線・名古屋駅まで35分)現地解散となります。現地までの交通費は各自ご負担下さい。
到着後の移動はマイクロバスをご用意します。

●主催
素材色彩研究会MATECO 
お申し込み・問い合わせ先  100mateco(アットマーク)gmail.com(担当:加藤)

2012年6月4日月曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その1】


2012年4月21日(土) に代官山ヒルサイドテラスにて開催致しました、素材色彩研究会MATECO設立記念レクチャー、【十人素色-決定の論理】。

ご登壇頂きました10組のレクチャラーの方々の『決定の論理』がどのようなものであったか、これから10回に分けてMATECO運営メンバーがレポートしていきます。

本日よりご登壇頂いた順にUPしていきますので、当日会場に来られなかった方、またお越し下さった皆様には再び、当日発せられたエネルギーと決定の論理の多様さ、そして改めて素材と色彩が持つ可能性を感じ取って頂ければ幸いです。

2012年6月4日(月) MATECO代表 加藤幸枝・田村柚香里



MATECOレポート  【十人素色-決定の論理 その1】 

Vol.01 「照明の決定の論理」 岡安泉照明設計事務所 岡安泉氏

私事ではあるが、実は1番気になっていたのがこの「照明」のセッションだった。昨年、GSDy主催で色彩計画家の加藤さん・マテリアルコーディネーターの田村さん(共に現MATECO代表)をお招きし、講演をして頂いた際に実現できなかった残りのワンピースが「照明」だったからである。
「素材・色彩・照明」は、「建築」「土木」「ランドスケープ」といった具体的に空間にアウトラインを与えていくレイヤーとは異なり、その立ち上がってきたアウトラインに対して「味」「雰囲気」を創りだすレイヤーではないかと考えている。料理に例えれば「材料」と「調味料」のような関係で、「調味料」なくして美味しい料理はできないといったところだろうか。

前置きが長くなったが「十人素色」当日、岡安さんからはジュリアナ東京を改修してHAKUHODOのオフィスに転用したプロジェクト(吉村靖孝建築設計事務所と共働)、2人の若手建築家(谷尻誠氏/平田晃久氏)とのコラボレーションによるミラノサローネでの2つのインスタレーションのプロジェクトの紹介があった。今回の講演では、その最新の3つのプロジェクトを通じて照明の決定論理をあぶり出そうとされていた。

この3つのプロジェクト紹介から決定の論理をどのようにあぶり出そうとされたのかを順にレポートする。

1. HAKUHODOのプロジェクト
このプロジェクトでは、窓のない空間でいかに快適に過ごせるかを目標とし、サーカディアンリズムを取り入れた照明計画をしている。ここでは、照明ボックス下面のガラスが幅1.3m×スパン11mといった梁に取り付くことで巨大な板材となり、ガラス厚が2224mmとなることで「緑色」のガラスになってしまい、照明による演出色が全て緑がかったものになってしまうという技術的な課題があった。
その課題を反射板に薄くピンク色を入れて補正することで解決したということだった。
結果、照度は350luxとなり、オフィスとしてはやや低い数値であるが、低い色温度の中ではあまり照度が高いと生活しづらいという人間の感覚的な問題があることから、スタンドなどの補助照明を用いることで解決できる、という解説が加えられた。


2. Miranosalone2012 インスタレーション1
谷尻誠氏とのインスタレーションは、アクリルの破材の価値観を変えるというコンセプトに基づき参加型インスタレーションで行われたものであった。破材のアクリルを水盤に浮かべ、水盤の境界面を全反射面として水の中をLEDで光を反射させ、アクリルが水盤の境界面に触れた瞬間にボワッと光るといった仕組みをつくられたというお話であった。

3.Miranosalone2012 インスタレーション2
平田晃久氏とのインスタレーションでは、日中から日没までの間をバランスよく太陽光発電できる4枚の太陽光パネルとポリカーボのストラクチャーで1ユニット化された全16ユニット、合計25kgの単純な構造物のライトアップとその周囲を取り囲む展示空間の回廊の照明を手掛けられたということであった。
ここでは照明プログラミングという方法論ではなく、人が歩き回ることで構造物に映込む光の変化を楽しめるように演出し、愛着を持ってもらうことを意図したとのことであった。また、回廊の照明ではLEDの特性を活かしたバルーン照明を手掛けられ、熱を発しないLEDの誕生により照明と組み合わせることのできる素材の幅が広がったということであった。

岡安さんの口から、「決定の論理はこれだ」というまとめはなかった。しかし、3つのプロジェクト紹介から、決定の論理は「課題解決に基づいていること」「標準的な必要照度(lux)にこだわり過ぎないこと」「LEDの登場で決定の論理の幅が広がったということ」の3つがあるのではないかと感じられた。 
また、この原稿を執筆するにあたって岡安さんの一連の仕事をHPで拝見させて頂き、コラボレーションする人・モノによって柔軟にその決定論理を変えていらっしゃるのではないかと感じられた。

いずれにしても、今回は10分という限られた時間の中でお話をして頂いたのではっきりと見えてこなかった部分もあったのではないかと思う。また別の機会にじっくりとお話を伺える機会を持てればと思う。


●レクチャラープロフィール
岡安泉 / IZUMI OKAYASU
1972年生まれ。1994年、日本大学農獣医学部を卒業し、生物系特定産業技術研究推進機構に勤務。1999年、アイティーエルに入社、照明技術に携わる。2003年、super robotに参加。2005 年にismi design officeを設立。
2007年に岡安泉照明設計事務所に改称。主な仕事に、ルイ・ヴィトン京都大丸店のファサード、美容室「afloat-f」(設計:永山祐子建築設計)や隈研吾建築設計事務所「casa umbrella」(ミラノトリエンナーレ2008)の展示照明、反射鏡付きハロゲンランプ、ピンホールダウンライトはじめ照明・展示用器具のプロダクトなど。

●レポート執筆担当
岡田 裕司 / OKADA YUJI
1987年、埼玉県生まれ。2012年早稲田大学大学院(景観・デザイン専攻)を修了し、同年4月より株式会社オリエンタルコンサルタンツ都市地域創生事業部門都市デザイン部にて公共空間のデザインや計画に従事。
学生時代は国内外のデザインコンペやWSに参加する傍ら、GROUNDSCAPE DESIGN youth代表(2010-2012)として「風景」をキーワードにして様々なイベントを企画・運営し、広く社会に対して情報発信を行う。