2012年6月3日日曜日

第一回勉強会を終えて -その2


先日アップしましたその1に続き、特に後半の意見交換の部分について、概要を記しておきます。
その1でご紹介したのは、環境色彩デザイン事務所CLIMATからの話題提供の部分です。後半では具体的事例をいくつか挙げ、色彩計画の役割やその職能が求められる場面についての紹介、その後は参加して下さった皆さんと自由に意見交換をしましたので、その模様をまとめてみました。ご照覧の上、ご意見・ご感想等頂けますと幸いに存じます。

来る6月は23日(土)・24日(日)にこちらも第一回目のタイル工場見学会を予定しております(※募集要項は近日中にアップします)。座学により思考を鍛える時間、モノづくりの現場で体感する時間。今後もその両方を行き来しながら、素材と色彩の決定論やモノづくりのテクニカルな側面からのアプローチの探究など、MATECOならではの活動を続けていきたいと思います。

201263日 MATECO代表 加藤幸枝

環境色彩デザイン事務所CLIMATからの話題提供(概要)

●環境色彩計画の事例から
事例1.狭山市駅西口市街地再開発事業~色彩ガイドライン作成及びデザイン調整会議事務局としての活動
本計画は駅前広場・デッキ・商業棟・公益施設棟・住宅棟・バス、タクシープール等、様々な機能が集積する駅前再開発における色彩の調整業務である。まちづくりや各設計の方針及び周辺環境に沿い、各施設が使用できる色彩の範囲を絞り込むという手法は、通常の業務と際は無いが、長期にわたる計画の実施段階において、各設計者の意向や現場を確認しながらデザイン調整会議というプロセスを介し、“最終決定を承認し、次や隣接する計画へ反映させる”ことを行った。

 CLIMATは全体のルールづくりに係わりながら、その運営が意図や方針が正しく理解さているか、そして続く計画がまた、それまでの蓄積を引き継ぐことのできる体制が整っているか、という調整業務に係わった。
このような業務では私達が何物をも決める権限は持っていないが、決定がなされる際のジャッジが有益かということに対し必要な調整事項や改善点を見極め、各機関をつないでいくという役割を担った。

事例2.みさと団地外壁修繕色彩計画~最小限の色数による多様性を表現するためのシステム
みさと団地は埼玉県三郷市にある大規模住宅団地である。2007年頃より大規模な修繕が街区単位で進められてきた。こうした大規模団地はこれまで、部分的な修繕の度に都度単体として外装色彩を検討し、多くは既存の環境と同色が採用されることが多くあった。私達は本業務において街区全体やまちづくりの方針等を鑑み、総合的に全体の整備方針及び計画を立てておくことにより、後から行われる修繕がちぐはぐなものとならないような計画を実践した(発注時、修繕の対象となっている住棟以外にも展開出来るカラーシステムを提案した)。

ここで試みたのは最少の色数で最大の変化を出す、という方法論である。複雑なシステムは使いづらく、長持ちしない。一つの街区(10数棟の住棟からなる)に使用する色は色相を揃えた5色とし、基調色の濃淡を反転させる等の工夫によりアイレベルにおける変化の形成に役立てている。団地全体で10の街区に対して3つの色相(×5色=全体で15色)を用意し、隣りあう街区が同じ色相にならないよう配慮すると共に、濃淡の対比により全体の統一感と適度な変化のバランスと維持している。

事例3.アリオ亀有外装色彩計画~賑わいと適度な変化
ここではプレゼンテーション時以外は人の目に触れることのない、実現しなかった案についての紹介を行った。私達は多くの場合、提案時に23つの案を作成し、プレゼンテーションに臨む。ある範囲までは徹底的に理詰めで方向性を導き出すが、そのギリギリのところの解釈や形態との関係による新しい可能性の追求など、その表現には毎回、様々な幅がある。依頼を受けてデザイン提案するという業務において、施主が満足する様な案を提案することは重要だが、予想を超える解釈やビジョンを示すこともデザイナーに求められる職能の一つであるように考えている。

いたずらに目新しさがあればよい、というものではもちろんなく、最終的な決定案の責任は持ちつつ、選定のプロセスにおいては施主や設計者を積極的に巻き込む(良い意味で)ことにより、建築や工作物が担う公共性の在り方を常に広く議論していきたいと考えている。

事例4.大規模集合住宅の基本設計・実施設計・管理~関係者間で意識を共有するためのデザイン
現在建設中の大規模集合住宅の素材・色彩検討。業務の重要な部分が選定・決定であることは間違いないが、計画が長期に渡り、係わる関係者が多くいる場合は個々のデザインがなぜ・どのような方針で形づくられてきたか、ということを明確にしておく必要があると考えている。

この計画では幸い、建築の基本設計段階から参画することが出来たため、当初からプロジェクトのロゴマークを(勝手に)つくりプレゼンテーションの度に展開、また都度の提案がコンセプトに基づいたものであり、だからこのような素材・色彩がふさわしいのだ、というややしつこい程の反復をほぼ2年、積み上げてきた。結果、販売パンフレット等も設計者・デザイナーの意図から大きく外れることもなくビジュアル展開がなされ、当初は契約の範囲に無かった共用部の家具やアートの選定にまで係わることになった。
そうした全てのプロセスに係わることで、何よりエンドユーザー、そして地域の人々に対しても祖語のない計画が進められたのではないか、と考えている。

以下、意見交換の内容より(概要)

●自然との関係、という時、緑等植物の色も(測色の)対象とするのか
常に、というわけではないが、何か特徴的な要素である場合は測色を行うし、常緑樹と落葉樹の色彩の変化の様子など、一定のデータは持っている。計画においては周辺の自然を生かすために、という視点があり、例えば緑が持つ彩度の変化(36程度)を建築の基調色はなるべく越えるべきではない、等の指針として役立てている。

植物の色を生かすと言っても植物の色そのものを再現することでなはく、人工物は四季折々に変化する姿をより印象的に感じられるためにどうあるべきか、ということを考えている。

●橋梁等の構造物と色の関係はやはり難しい、色を『つける』という感覚から逃れならない気がする
構造物の色彩設計は難しく、基本的には本体を、ストラクチャーとしてどう美しく見せるか、という点が最も重要だと思う。となると、照明計画との係わりも重要であり、その演出が効果的なのも構造物の特徴であると考えている。

しかしながら環境色彩という立場でいくと、例えば同じ構造でも設置される場所(周辺環境や背景)によって異なる色彩になることは充分に考えられ、設計者の立場を越えて、場ごとの判断という視点が必要になってくるのではないだろうか。

●何となく決めた色は、良くないのか?何となく決めるのでは、いけないのか?
普段何となく色を決めていると思っていても、そこには何がしかの必然性があるような気がしている。(質疑で挙げられた例でいくと)無意識のうちの映えるべき・馴染ませるべき、ということをある程度は経験から判断しているように見受けられる。それを論理的に構築し、広く理解を得られるよう言語化するためには、やはりある程度、色彩学の知識を必要とする。

何となく決めて皆がいいと言ってくれる、という状況は極めて理想的であると思うが、今後も特に行政や市民が多く係わる計画では、多くの人に共感を得られる“選定の理由”が必要となるし、例えこじつけでもある程度のわかりやすさは必要なのではないか。特に地域の新しいシンボルとなるような存在であれば尚更、ストーリーが明確であった方がより親しみを感じやすく、永く愛着の湧く対象として受け入れられやすいように思う。


おわりに
意見交換は質疑から発展した部分も多くあったため、抜き出して記述するには難しい点があり、今回は上記概要として留めさせて頂きます(前後の文脈ごと記載しないとわかりづらいので)。
参加して下さった方々からは靄が晴れたようですっきりした、益々わからなくなってきた…等のご意見を頂き、今後は個別のテーマ(分野)毎にも掘り下げが必要だなと感じました。
また、モノをつくることを専門とすることと、イロを扱うことを専門とすることの違いについて、もっと議論がしたいというご感想もありました。私自身はモノをつくっているという感覚は申し訳ない程に希薄で、(素材・)色彩が形態やその場の環境と一体となって織り成し、眼前に現れる現象を操作しているにすぎない、と常々考えています。だからこそ、単体としての善し悪し以上にその場においてどのように見えるか、ということについてはこれからも拘っていきたいと思っています。
色を扱うことを専門する立場から、モノづくりに携わる設計者に向けて果たして何が出来るのか、すべきなのか。たくさんの宿題を頂いた勉強会でした。

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